クラシック音楽へのおさそい〜Blue Sky Label〜


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モーツァルト:ディヴェルティメント ニ長調, K.136/125a


イ・ムジチ合奏団 1958年10月10日~20日録音をダウンロード

  1. Mozart:Divertimento in D major, K.136/125a [1.Allegro]
  2. Mozart:Divertimento in D major, K.136/125a [2.Andanre]
  3. Mozart:Divertimento in D major, K.136/125a [3.Presto]

どのような編成を採用しようと若々しいモーツァルトに相応しい響きを実現することが大切



1772年の初めにザルツブルクで書かれたと推定される(K.136, K.137, K.138)3曲の自筆楽譜には「ディヴェルティメント」と記されています。
しかし、よく見てみると、その「ディヴェルティメント」の筆跡は明らかにモーツァルトのものではないことが分かります。

言うまでもないことですが、当時の様式として「ディヴェルティメント」には2つのメヌエットが必要です。それに対して、この3つの作品は全てがシンプルな3楽章構成であり、さらに言えば一つもメヌエット楽章を含んでいません。
ですから、別の人物がモーツァルトには無断で「ディヴェルティメント」と書き込んだ可能性が高いと高いと考えられています。

また、この作品は現在においては弦楽四重奏としても弦楽オーケストラの作品としても演奏されるのですが、そして、どちらの形式で演奏しても良い響きがするのですが、それでもモーツァルト自身は各パート一人を前提に作曲したと考えるのが妥当だと今日では考えられています。
それも、いわゆる通常の弦楽四重奏としてではなくて、2つのヴァイオリンとチェロ、コントラバスという編成の「ディヴェルティメント四重奏団」を想定していたようです。

つまりは、聞き手にとってはどうでもいいような話なのですが、専門家にとってはこの3つの作品をどのジャンルに分類すべきなのかは頭を悩ます問題だったのです。

ちなみに、旧全集ではこれらは弦楽四重奏曲(K.136は第24番、K.137は第25番、K.138は第26番)とされていました。モーツァルトの権威とされていたアインシュタインが「弦楽四重奏曲」のカテゴリーに含めていたからでしょう。
しかしながら、若干の戸惑いもあったようで、「これらは全くオーボエとホルンのない弦楽器だけのシンフォニーである。 言いかえれば、これらの四重奏曲はモーツァルトの最初の四重奏曲がむしろ室内楽的傾向を持っていたのと同程度にシンフォニー的傾向を持っている。」と注釈をつけています。

そして、新全集では「オーケストラのためのディヴェルティメント」として扱っています。
さらに、現在のモーツァルトの権威とも言うべきザスローはその全作品事典で「鍵盤楽器を伴わない室内楽曲」に分類しています。

とは言え、そんな事は聞き手にとってはどうでもいいことです。
必要なことは、どのような編成を採用しようと、そこから16歳の若々しいモーツァルトに相応しい響きを実現することです。

ディヴェルティメント ニ長調 K. 136 (125a)



  1. Allegro:第1ヴァイオリンがまるでプリマ・ドンナであるかのように、技巧的に振る舞うように設定されています・

  2. Andante:イタリア風の柔らかい情愛に満ちています。

  3. Presto:あっさりとした雰囲気ですが、ソナタ形式による生真面目さも披露しています。




大ヒットした「四季」を思い出させるモーツァルト


この録音は大ヒットした「四季」のおよそ半年ほど前のものとなります。
これは全くの受け売りなのですが、あの「四季」の前に彼らは1955年にモノラルで「四季」を録音しています。そして、その演奏は大ヒットした分厚い低声部をベースにしたまろやかな響きとは全く違って、切れ味の鋭い響きとなっているようです。「なっているようです」とは何とも無責任な話で申し訳ないのですが、そのモノラル録音が未だに入手出来ていないので残念ながら「伝聞系」とならざるを得ません。

おそらく、全くの想像ですが、「ソチエタ・コレルリ合奏団」のような演奏だったのかもしれません。
しかしながら、未だに私がその録音を入手出来ないと言うことはそれだけ売れなかったと言うことであり、その事は「ソチエタ・コレルリ合奏団」も同様でした。

つまりは、バッハならば漸くリヒターの様な演奏が受容されるようになってきていても、それ以前のバロック音楽ではなかなか難しかったようなのです。
そして、彼らはそう言う「聞き手」を意識して1959年に大トロの「四季」を演奏し、それが記録的な大ヒットとなったのです。

そして、その転換はすでにこの半年前のモーツァルト演奏からもはっきりと窺うことが出来ます。
1958年の10月2日に以下の4曲を一気に録音しています。

  1. モーツァルト:セレナード第13番「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」, K.525

  2. モーツァルト:アダージョとフーガ ハ短調 K.546

  3. モーツァルト:ディヴェルティメント ニ長調, K.136/125a

  4. モーツァルト:セレナード 第6番 ニ長調 K.239「セレナータ・ノットゥルナ」


分厚い低声部を土台にして、レガート奏法も取り入れた響きは大ヒットした「四季」を連想させます。

しかしながら、そう言う響きでゆったりとモーツァルトを演奏されてみると、貧血気味のピリオド演奏を散々書きされた耳には実に心地よく響きます。また、現在では弦楽四重奏で演奏されるのが一般的な「アダージョとフーガ ハ短調」をこのような響きで聞けるというのは涙ものです。
もちろん、耳タコの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」も、ここまで嫋々と演奏されると、それはそれで悪くはないなと思ってしまいます。

特に、B面に収録されることになったディヴェルティメントとセレナードは、若きモーツァルトに相応しい伸びやかな音楽に仕上がっています。もっとも、例えば「セレナータ・ノットゥルナ」のメヌエット楽章に見られるような過剰な表情づけには眉を顰める人もいるかもしれませんが、それが今の時代には逆に魅力的に思えたりもします。

まさに、「四季」の大ヒットはここに予告されていたのかもしれません。