クラシック音楽へのおさそい〜Blue Sky Label〜


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ドビュッシー:3つの交響的スケッチ「海」


アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 NBC交響楽団 1950年6月1日録音をダウンロード

  1. Debussy:La Mer, trois esquisses symphoniques [1.De l'aube a midi sur la mer]
  2. Debussy:La Mer, trois esquisses symphoniques [2.Jeux de Vagues]
  3. Debussy:La Mer, trois esquisses symphoniques [3.Dialogue du Vent et de la Mer]

ドビュッシーの管弦楽作品を代表する作品



「牧神の午後への前奏曲」と並んで、ドビュッシーの管弦楽作品を代表するものだと言われます。
そう言う世間の評価に異議を唱えるつもりはありませんが、率直な感想としては、この二つの作品はたたずまいがずいぶん違います。

いわゆる「印象派」と呼ばれる作品ですが、この「海」の方は音楽に力があります。
そして曖昧模糊とした響きよりは、随分と輪郭線のくっきりとした作品のように思えます。

正直申し上げて、あのドビュッシー特有の茫漠たる響きが好きではありません。
眠たくなってしまいます。(^^;

そんな中でも聞く機会が多いのががこの「海」です。

作曲は1903年から1905年と言われていますが、完成後も改訂が続けられたために、版の問題がブルックナー以上にややこしくなっているそうです。

一般的には「交響詩」と呼ばれますが、本人は「3つの交響的スケッチ」と呼んでいました。
作品の雰囲気はそちらの方がピッタリかもしれません。

描写音楽ではありませんが、一応以下のような標題がつけられています。


  1. 「海の夜明けから真昼まで」

  2. 「波の戯れ」

  3. 「風と海との対話」





トスカニーニという男のチャレンジ精神を煽り立てるにはぴったりの音楽


トスカニーニの音楽の構築性を大切にする姿勢と、茫洋たる響きを特徴とするドビュッシーの音楽は一見すると相性があまりよくないように感じます。しかし、よく知られているように、フランス音楽の中ではトスカニーニはドビュッシーの音楽を最も数多く取り上げています。
とりわけ、「ラ・メール」は彼の十八番とも言うべき作品であり、若いころは新しい都市を訪れて公演を行うときは名刺がわりのようによく取り上げたという話が残っています。

しかし、それは考えてみればすぐに納得のいく話であって、ドビュッシーの音楽の特徴と言うべき茫洋たる響きは、いわゆる「雰囲気」によってもたらされる物ではなく、それは今まで誰の耳もきくことの出来なかった音と音の重なりによって生み出されたものでした。それ故に、ドビュッシーが聞き取った新しい響きによって生み出された音楽は、その精緻きわまる音の重なりと、それらを使って生み出される綿密な構成を正確に再現しなければ本当の姿を見せない物なのです。
そして、その様な精緻なる物を追求することはトスカニーニという男のチャレンジ精神を煽り立てるにはぴったりの音楽だったのです。

その意味で、1950年に録音された「ラ・メール」はこの作品の一つのスタンダードとも言うべき演奏でしょう。そして、この録音からセル&クリーブランド管による「ラ・メール」を想起するのは容易なことです。
おそらく、セルこそはトスカニーニが求めた物をもっとも強く引き継いだ指揮者だったと言えるでしょう。
セルがその過酷なリハーサルで、オケのメンバーから「俺たちを豚扱いにする」とか「ミリタリー!!」等という批判を受けたときに、それを率先して肯定して擁護したのはトスカニーニでした。

その意味では、彼らこそは「独裁者となることなく君臨した」モントゥータイプの指揮者の対極に位置する、そして今という時代には絶滅してしまった「君臨する独裁者」タイプの指揮者の典型でした。
ですから、私のようなセル・フリークにとっては、トスカニーニの「ラ・メール」はある意味では聞きなれた音楽です。もっとも、セルとは違う部分もあるのですが、それでも80歳を超えてもなお、これほどまでに精緻な響きを執拗に追求した男の執念には感嘆するしかありません。

ただし、セルはトスカニーニと同じように毎年のように「ラ・メール」を取り上げていましたが、それ以外のドビュッシー作品に対してはそれほど熱心ではありませんでした。もしかしたら、ほぼ皆無に近いような気もします。それに対して、トスカニーニはもう少し守備範囲が広かったようです。
それだけに、同じテイストで「牧神の午後への前奏曲」や「イベリア」を聞けるのは、私にとっては興味深かったです。
とりわけ、茫洋たる響きの代表とも言うべき「牧神の午後への前奏曲」ってのはこういう仕組みになっていたのか通せてもらっているような気がしました。
これが80代も半ばを過ぎた、引退1年前の録音とは信じがたいほどの完成度です。