クラシック音楽へのおさそい〜Blue Sky Label〜


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ベートーベン:交響曲第4番 変ロ長調, Op.60

ヴィルヘルム・フルトヴェングラー:フルトヴェングラー指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1952年12月1日~2日録音

  1. Beethoven:Symphony No.4 in Bflat major , Op.60 [1.Adagio; Allegro Vivace]
  2. Beethoven:Symphony No.4 in Bflat major , Op.60 [2.Adagio]
  3. Beethoven:Symphony No.4 in Bflat major , Op.60 [3.Menuetto; Allegro Vivace; Trio]
  4. Beethoven:Symphony No.4 in Bflat major , Op.60 [4.Allegro Ma Non Troppo]


北方の巨人にはさまれたギリシャの乙女

北方の巨人にはさまれたギリシャの乙女、と形容したのは誰だったでしょうか?(シューマンだったかな?)エロイカと運命という巨大なシンフォニーにはさまれた軽くて小さな交響曲というのがこの作品に対する一般的なイメージでした。

そのためもあって、かつてはあまり日の当たらない作品でした。
そんな事情を一挙に覆してくれたのがカルロス・クライバーでした。言うまでもなく、バイエルン国立歌劇場管弦楽団とのライブ録音です。

最終楽章のテンポ設定には「いくら何でも早すぎる!」という批判があるとは事実ですが、しかしあの演奏は、この交響曲が決して規模の小さな軽い作品などではないことをはっきりと私たちに示してくれました。(ちなみに、クライバーの演奏で聴く限り、優美なギリシャの乙女と言うよりはとんでもないじゃじゃ馬娘です。)

改めてこの作品を見直してみると、エロイカや運命にはない独自の世界を切り開こうとするベートーベンの姿が見えてきます。
それはがっしりとした構築感とは対極にある世界、どこか即興的でロマンティックな趣のある世界です。それは、長い序奏部に顕著ですし、そのあとに続く燦然たる光の世界にも同じ事が言えます。第2楽章で聞こえてくるクラリネットのの憧れに満ちた響き、第3楽章のヘミオラ的なリズムなどまさにロマン的であり即興的です。
そして、こういうベクトルを持った交響曲がこれ一つと言うこともあり、そう言うオンリーワンの魅力の故にか、現在ではなかなかの人気曲になっています。

フルトヴェングラーのスタジオ録音を見直すときが来たようです。


フルトヴェングラーの演奏に関しては大戦中のライブ録音を評価するのが一般的でした。
しかし、戦後になされたスタジオ録音を素晴らしい音質で蘇らせてリリースする動きが最近になって目立ってきました。

とりわけ、52年以降のスタジオ録音に関してはEMIが正式にテープ録音を採用しているために、最近の録音と比べてもそれほどの落差を感じることなく音楽を楽しめるはずのものでした。それなりにきちんと作り込めば、それなりの音質で音楽を再現できるポテンシャルはある録音だったのです。
ユング君がこのことに初めて気づかされたのは、イタリアEMIが独自にマスタリングをほどこしてリリースしたベートーベンの交響曲全集を聞いたときでした。それは、今までに何度も再発を繰り返してきた同じEMIの音源とは思えないほどの素晴らしいものでした。

さらに、その後「THE 50’S」なるマイナーレーベルから出されたシューベルトの8番「ザ・グレイト」(50年スタジオ録音)を聞いたときは、開いた口がふさがりませんでした。いったいどういう種と仕掛けがあるのか分かりませんが、今まで何度も耳にしてきたEMIのものとは別物ののようなすぐれた音質でした。
最初は何か強力なノイズリダクションをかけているのかと思いましたが、聞き込んでみるとそう言う形跡は全くありません。おそらくは、よほど質の良い初期LP盤からの板おこしをしたのでしょう。
こうなると、テープ録音を正式に採用する以前の録音でさえも、やる気さえあればかなりの音質で蘇らせることも可能だと言うことが分かります。

そして、そう言う努力をEMIが全くやってこなかったのではないかという疑惑も浮かび上がってきます。
著作権という錦の御旗の上にあぐらをかいた殿様商売のゆえでしょうが、その錦の御旗が効力を失うことによって(隣接著作権の失効)、逆にフルトヴェングラーの芸術の本質が浮かび上がってくるようなすぐれたCDが市場に出回るようになったとするなら、何という皮肉、何というパラドックスでしょうか!!

つまり、EMIの様な粗雑な音質でスタジオ録音をリリースしていたのでは、音質の面でも大戦中のライブ録音に対してそれほどの優位を主張できず、その結果として、きちんとまとまったスタジオ録音よりは異様な緊張感に満ちた大戦中のライブ録音に軍配があがるのは当然のことだったのです。

しかし、うれしいことに、多くのマイナーレーベルからリリースされる最近のCDは、大戦中のライブ録音などとはハッキリと一線を画すほどに素晴らしい音質です。そうなると、細部の細部まで彫拓の限りを尽くしたスタジオ録音は、フルトヴェングラーというこの希代の天才がそれぞれの作品と作曲家をいかに理解していたかをハッキリと私たちに教えてくれるものとなっています。
とりわけ、52年の11月の下旬から12月の初旬にかけて集中的に録音されたベートーベンの交響曲は注目に値します。

52年11月24,25日:交響曲第6番「田園」
52年11月26,27日:交響曲第3番「エロイカ」
52年11月24,27,28日:交響曲第1番
52年12月1,2日:交響曲第4番

これだけ集中的に録音したのですから、それなりの準備と思い入れを持って取り組んだはずです。一般的にはそれほど評価の高くないスタジオ録音ですが、すぐれたCDで聞き直してみると全く別物のように聞こえるはずです。
それ故に、フルトヴェングラーのベートーベンは既に何種類もアップしてはいるのですが、2004年を迎えて新たにパブリックドメインの仲間入りをはたしたこれらの音源をアップせざるをえないユング君なのです。(残念ながら1番に関しては初出が55年ですので、隣接著作権は失効していません。それ以外はすべて初出が53年です。)