ヴォーン・ウィリアムズの作品がパブリックドメインとなっているようです。

最近著作権について調べていて新しい発見がありました。
まずは、調べたかったのはヒンデミットの著作権についてです。ヒンデミットはドイツの作曲家ですから、一般的には戦時加算の対象とはなりません。しかし、ナチスの迫害を逃れて1940年にアメリカに亡命をして市民権を得ています。
これは、バルトークやプロコフィエフなどにもあてはまるパターンで、作品によって著作権が切れていたり切れていなかったりするので注意が必要なのです。最近気になっている作曲家としては、チェコのマルティヌーなんかもよく似た経歴を持っていて、ややこしいこと限りなしなのです。
ただし、ヒンデミットの場合は調べた限りでは割合に割り切れる部類に属するようで、一般的には亡命以前に作曲された作品、つまりはドイツ人として作曲した作品は戦時加算の対象にならないのでパブリック・ドメイン、アメリカ亡命以後に作曲された作品は戦時加算の対象となるので未だに著作権が切れていないという理解でいいようなのです。
これでいくと、サイトに是非ともアップしたいと考えていた交響曲「画家マチス」はパブリックドメインとなっているようです。

Vaughan_Williams

Ralph Vaughan Williams

しかし、ここで述べたい「新しい発見」とはその事ではありません。
実は、これについて調べている過程で、当然のことならが戦時加算の対象になるはずなのに、何故かそれが適用されていない大物作曲家の存在に気づいたのです。
その大物作曲家とは「レイフ・ヴォーン・ウィリアムズ(イギリスの作曲家:1872年10月12日-1958年8月26日)」です。

ヴォーン・ウィリアムズは1958年になくなっていますので、日本の著作権法の下では死後50年が経過した翌年の1月1日をもって権利が消滅することになっています。ですから、2009年にはパブリックドメインとなるのですが、ここで登場するのが敗戦国(いつまでそんなことを言われるの、と言いたくなりますね)日本に対するペナルティ条項である「戦時加算」です。
詳しい経緯は避けますが、日本での著作権が消滅してから、さらに一定期間わたって著作権が維持されるというのが「戦時加算」と呼ばれるもので、その加算期間はイギリスの場合は3794日となっています。
つまり、ヴォーン・ウィリアムズの場合だと、2009年1月1日から3794日経過しないと著作権が消滅しないのです。

この「3794日」というのをもう少し分かりやすく計算すると、1年365日ですから10年で3650日+2日(閏年は10年に2回)=3652日となりますので、10年と142日という事になります。1月1日から142日経過した日というのは閏年でなければ5月22日ですから、普通に考えればヴォーン・ウィリアムズの著作権は2019年5月22日まで継続されるはずなのです。
ところが、何故か、このヴォーン・ウィリアムズの全ての著作権は既に日本国内では消滅していてパブリックドメインになっているのです。

そんな馬鹿なと思ったのですが、JASRACの「作品データベース検索サービス」で調べてみると、確かに全ての作品がパブリックドメインとなっています。
実にもって不思議な話なのでネット上であれこれ情報を探ったのですが、その経緯は全く分かりませんでした。分からないどころか、いまだにヴォーン・ウィリアムズは戦時加算の対象となるために著作権が消滅していないので注意が必要だという記述にあちこちで出会いました。

ただし、ヴォーン・ウィリアムズの作品がパブリックドメインとなったことは間違いないようです。誰か、この経緯をご存知の方がおられるでしょうか?

それから、もう一人、アメリカの大物作曲家である「チャールズ・アイヴズ」の著作権が2005年5月22日をもって消滅していることにも気づきました。アイヴズは1954年に亡くなっていますから、アメリカの戦時加算3794日がキッチリ追加された上で、めでたくパブリックドメインとなりました。

<追記>
その後、このアイヴスも何故か戦時加算の対象にはならず2005年をもってパブリックドメインとなっていたという情報にも出会いました。もちろん、上で述べたように昨年の5月をもってパブリックドメインとなったという情報も存在します。
どちらにしても現時点ではパブリックドメインとなっているので問題はないのですが、やはりこの手の問題は自己責任でしっかりと調べをつける必要があるようです。

3 comments for “ヴォーン・ウィリアムズの作品がパブリックドメインとなっているようです。

  1. CAO
    2018年4月20日 at 10:39 AM

    はじめまして。
    私も気になったのでJASRACに問い合わせてみました。
    その回答は、「戦時加算かどうかは、作品毎に楽曲の公表年を基に判断しておりますので、同一作家の楽曲についても、楽曲によって戦時加算対象曲で保護期間中の作品と、戦時加算対象外で、著作権消滅作品が存在します。(同作家の楽曲でも、戦後公表の楽曲は戦時加算対象外となり、死後50年で著作権が消滅します。)」ということでした。

    • yung
      2018年4月20日 at 9:31 PM

      もしも、JASRACからの回答がご紹介していただいた内容だとすると、彼らはヴォーン・ウィリアムスの件については全く無知である事を示していますね。
      彼の交響曲に関しては第5番までは戦前の作品ですから戦時加算が丸々適用されますし、6番に関しては戦後の作品ではあるのですが講和条約締結前に発表されていますので、戦時加算が部分的に適用されます。
      7番以降に関しては講和条約締結後の作品ですから戦時加算の対象から外れます。

      問題は、1番から6番までの「戦時加算」の対象となる作品についても彼はそれを望まなかったと言うことです。
      まあ、ニッチな世界のレアケースではあるのですが、少なくとも著作権管理を本業としているのですからもう少し丁寧な解答があってもよかったと思われますね。

      なお戦時加算一般について一度文化庁に問い合わせたことがあるのですが、その時は実に懇切丁寧に解答がもらえました。
      困った人もいるのですが、現場の第一線で働いている官僚(間違いなくノン・キャリ)というのは優秀なものだと感心したものでした。

      余談ですが、知人の娘さんが財務省でキャリア官僚を務めています。
      弟さんが障がいをかかえていたので、本人は厚労省を希望したのですが意に反して財務省に配属されたという変わり者です。
      優秀であると同時に人間的にも素晴らしい女性だったので、今どのような思いで日々を過ごしているのかと思うと複雑な感情を禁じ得ません

  2. CAO
    2018年4月21日 at 10:46 AM

     そうでしたか。私の投稿『その回答は、』より後の「」内は、回答の原文をそのまま転載したものです。JASRACには「アマチュアの質問なんか丁寧に答えられない」といった傾向(体質?)があるのでしょうね。

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